三味線を人生の支えに。

三味線の糸を張りっぱなしにするとどうなるか…。

「木が反る」とは聞いていたので、糸を必ず緩めるように生徒さんにお伝えしていました。

しかし、初めて、糸をあまり緩めなかった生徒さんが出現。棹と胴の付け根が取れてしまいました。しかも、私がお貸ししていた三味線です。

私は、三味線の手入れをしっかりしなかった彼を、思いっきり叱りました。どうして、教えたとおりにしてくれなかったのかと。
そして、あまりに怒っていたので、その日のお稽古を取りやめ、代わりの三味線もお貸ししませんでした。

でも、、、その生徒さんはご高齢にもかかわらず、毎日必死で働いて、もう泥のように疲れて帰ってきて、でも、三味線が弾きたくて、、、なので、調弦の時間を少しでも減らそうと糸を張りっぱなしにしていたとのこと。

「先生として生徒を導く」という気持ちよりも、「あれほど伝えてきたことがないがしろにされた!三味線を大事にしてもらえなかった!」という悔しさが先だって、かなりきつい言葉で叱ったのですが、「ただ、三味線が弾きたい」という、彼の純粋な想いも同時に伝わってきて、その日は、号泣してしまいました。

その三味線が修理から帰ってきて、今夜、再び彼のもとへ戻っていきました。台風で雨が激しく降る中、「早く弾きたい」と、彼は三味線を取りに来てくれました。

「三味線を教える」ということは、もちろん、「三味線を上手に弾けるように教えること」ですが、それだけではなく、「三味線を人生の支えに」という方に出会えることが、先生冥利に尽きるのだろうと思った夜でした。